みんなの思い、いろいろ

第5話

 9月になったばかりの今日は改めて例会が開かれるというので、私は大学に向かっていた。まだまだ暑いけど、日差しは秋色に染まり始め、自転車で突き進む優しい風の匂いは、もう夏のものとは変わってきているのをなんとなく感じた。

 南門をくぐるときに、私が来たのと反対方向からまもるくんが同じように自転車をこいでいるのが見えた。

「葵くん、おはよう!」

私のほうから声をかけると、葵くんは、おはよう、と返してくれた。

実梨みのりちゃん、新しい後輩が入ってよかったね」

それぞれ自転車を駐輪場に止めると、葵くんは自然と私のほうに寄ってきて、私に歩調を合わせてくれながら言った。私も、葵くんに合わせた。

「うん。ほかのパートも、みんな一人じゃ寂しいよね」

「って、全員合わせたら9人いるから俺は寂しくないよ、なんてね」

そう優しく、でもいつも通りのどこか冷静さを保って、葵くんは笑った。葵くんは、私とは年齢が一回り上なんじゃないかっていうくらい落ち着いている。

「でも演奏面で言えば、チューバ1本だと俺がブレスしてる間は低音が弱くなるから、もう1人チューバか木管低音楽器が入るまでは、俺はチューバの代わりにコントラバスをすることにしようと思う」

へえ、そうなんだ、と私が相槌を打つと、葵くんは続けた。

「これは、俺の高校時代の顧問が教えてくれたんだ。その先生もチューバを吹く人だったんだけど、もし小編成でチューバとコントラバスのどっちかひとつしか人を回せなかったら、コントラバスのほうがブレスもなくて音量出るから優先したらいい、って」

 そうしているうちに、私たちの練習場があるサークル棟A館に着いた。葵くんが扉を引いて、どうぞ、と先に入るよう私に促してくれた。ありがとう、と言って私は厚意に甘えた。おはようございます、と葵くんと私が一緒にあいさつすると、みんなが応えてくれた。もう、他の7人は来ていた。

 「よし、葵と実梨が来たから全員揃ったな。じゃあ、本日の例会を始めます」

前に立っていた遼弥りょうやくんが言うと、今日もレジュメを配ってくれた。

「今日は、前回話したことを、もう一度考え直すのがメインになると思う。だから、レジュメに書かれてることも基本は前回のと変わらない。ただ、話す内容の方向を若干変えたり、もっと突き詰めたりする必要があります。じゃあまずは改めて活動方針から…みんな、これからこの吹奏楽部でどうしたい?」

どうしたいって言われても、なんとなく、でここにいる私には明確に答えられない。

「前回は、俺は俺たちの身の丈に合った活動をする、具体的には公立の1000人ホールではなく半分の規模の学内ホールで、賛助を呼ばずに自分たちだけで定期演奏会をするって提案をした。麻乃あさのちゃんはみんなで楽器を吹けるだけで幸せだから、しょうは楽しければいいって理由で、それぞれ俺の意見に賛成してくれた。では、この間は一度も発言しなかったみんなの意見を聞いてみようと思う。ちょっと考える時間あげるから、麻乃ちゃんと翔は待ってあげて。あとでみんなに一人ずつ聞きます」

 そう言われても、本当に答えに困る。なんとなく、でこの吹奏楽部にいること、そんなに悪いことなのかな。考えてみれば、私の人生における重要なことがらは全部、なんとなく、で決めてきた。県立中高一貫校を受験することも、吹奏楽でパーカッションを始めることも、この伊予文化大学で社会学科を受験することも。学校たちはそれで運よく合格して入学したけれど、なんとなく、がなければ私の人生は180度変わっていたのかもしれない。だとすれば、私にはこの、なんとなく、がとても重要で欠かせないものだという気もする、なんとなくだけど。

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