第2話

 「それはね、まず、俺たちが今まで演奏会に使ってきた1000人収容できる規模のホールを使わないで、大学内にあるホールで演奏会を開く、ってことです。つまり、去年のうちから押さえてある公立のホールをキャンセルすることになるんだけど、だって考えてみてよ。今まで通りに1000人のホールで演奏会をすると、ホールの使用料を8人で割り勘しなきゃならないんだよ?仮に部員が20人でもあの使用料は結構きついのに、今の俺たちには絶対無理だ。それに、部員の少なくなった俺たちだから、来てくれるお客さんの数もたかが知れてるし。だったら、収容人数は半分になるけど、学内のホールでやったほうが、コストはうんと抑えられるし、何より運が良ければ本番数日前からずっと使わせてもらえるんだ。俺たちの身の丈に合ってるし、メリットも多いだろ?」

みんながうなずくのを見て、遼弥くんは続けた。

「それと、賛助を呼ばない、というのもひとつだと思う」

私は、はへ?という表情になった。みんなも呆気に取られたり、きょとんとしたりした。賛助を呼ばなければ、余計に吹奏楽が成り立たない気がするのだけど。

「うん、みんな俺が今言ったこと、信じられないだろな。まあそもそも、賛助って、パートごとに部員の人数が偏ってるときに、多いパートに合わせた編成の曲を演奏するとなると少ないパートを補わなきゃならなくなって、そこで呼ぶものだと俺は考えてるんだ。でも、今の俺たちって、不幸中の幸いとでも言えるけど、各パートがまんべんなく揃ってるよね。となれば、どうにかなるんじゃない?それに、無理に吹奏楽曲を演奏するのに最低限必要な人数を揃えようとすると、俺たちよりも賛助の人数のほうが多くなっちまうぜ?それって、本当に俺たちの演奏会か?と、俺は思うんだけど。おっと、俺ばかり語っててもいけないな。ここはみんなの吹奏楽部だし、みんなの考えも聞かせてよ」

遼弥くんがそう言うと、再びみんなが様子を窺い始めた。確かに、遼弥くんの言っていることは一理ある。しかし、なんとなく、私の心に上手くはまらない。だからって、特に反論する言葉も見つからない。そもそも、私が今ここにいる―伊予文化大学吹奏楽部にいる、はっきりとした理由もない。その割に、部員が半減したことにショックを受けていた自分は何なのだろうか。なんとなくだけど、愛着というものがあるのかな。それとも、当たり前に15人いるという思い込みが覆されたからかな。そう言えば、みんなはどうして、ここにいるのだろう。

「あの、私は、ここにいるみんなと一緒に楽器を吹けるだけで幸せです」

えっ、となった。1回生の麻乃あさのちゃんだった。どこか嬉しそうに話を続ける。

「だから、遼弥先輩が言ってたような、学内のホールで賛助を呼ばずに自分たちだけで演奏会をするって形だとしても、みんなで楽器を演奏できる場があるだけで嬉しいです」

頷きながら麻乃ちゃんが話し終えるのを待って、一息おいてしょうくんが再び口を開いた。

「俺は、どんな形であれ、みんなで楽しんでやれるならそれが一番いいです。楽しければ、できることをして今のままでもいいんじゃないかなと思います」

「ふむふむ。なるほど、麻乃ちゃん、翔、ありがとう。じゃあ、他には?」

遼弥くんがみんなを見回す。私も含め、先ほど発言した2人以外がみんなうつむいた。だって、指名されたとしても特に言うことがないんだもん。みんなもそうなのかな。

「えーと、特に異議もないみたいだから、活動方針と演奏会のことは、自分たちに見合ったことをする、学内のホールで自分たちだけで演奏会を開く、ということでよろしいでしょうか?」

はい、とミュートのかかったようなみんなと私の声が合わさった。遼弥くんが、本当にいいのか、というような表情で言った。

「ありがとうございます。じゃあ、曲目はあと2週間くらいでみんなで決めようか」

このあと、15人分のいよかんゼリーを1人に2個ずつ配って、お開きになった。なんとなくだけど、晴れ晴れとしたのと曇ったのがみんなの表情に混ざっていた。私たちの命運に、このいよかんがいい予感をもたらしてくれればいいのだけど。

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