明日は恋の予感が待っている

仲乃海幸

第1章 いよかん、いい予感?

部員が8人になっちゃった!

第1話

 8人。例えば、スポーツならバスケやバレーボールをするにはプレーヤーと補欠を合わせて十分な人数かもしれない。音楽でも、バンドなら2グループは組める。でもそれが、吹奏楽なら?最早、アンサンブル編成のような人数だ。ところが私たちの大学生吹奏楽部には、本当に8人しか部員がいない、というのだ。

 練習場に入った私は、いち、に、さん、し…と一人ひとりを指さし何度も数えたが、何度やっても自分を含めて8人しかいない。それも、誰か今日は来れない人がいるわけでもなく。私の左手から、15人分の地元のお土産―といっても、祖父の農園で作ったが使われたゼリーだけど、の入った紙袋がどしん、と抜け落ちた。確かに私の最後の記憶では、吹奏楽をやるにはやはり少ない15人の部員がいたはずだ。

実梨みのりちゃん、びっくりした?」

外で私が来るのを待っててくれて、一緒に部屋に入ったかなちゃんが苦笑しながら15人分の重みを拾いつつ、呆然としていた私に声をかけた。そして、15人分をはい、と私に差し出した。

「奏ちゃん…奏ちゃんが、今日は全部員が揃って臨時例会があるっていうから、私、てっきり15人いるって思ってたよ…」

両手で感じるお土産が虚しかった。申し訳なさそうに、奏ちゃんが口を開いた。

「本当はもう少し前からこうなったことが分かってたんだけど、インターンで忙しい実梨ちゃんには余計なことで心配させたくなかったから…」

どうやら、私がインターンシップで地元に帰っている2週間の間にこんな事態になったらしい。

「その配慮はありがたいよ。でも、そしたら今、余計びっくりしちゃったし、なんとなくショックだよ、私」

 そうして改めて現実を見回すと、私は気が付いた。今、私たちの吹奏楽部に残っている8人は、全員1回生と2回生。つまり、主将も含め幹部を担っていた3回生の先輩たちがみんな辞めてしまったのだ。

「奏ちゃん、主将とか、幹部の仕事はどうするの?」

すると、奏ちゃんは答えた。

「あ、それはね、遼弥りょうやくんが主将やってくれるって」

「心配すんな。おれがしっかりこの吹奏楽部を引っ張ってやるから、みんなはついて来ればいいんだ」

部屋の真ん中のほうにみんなといた遼弥くんはそう言うと、自信ありげに右手のこぶしで胸板をぽん、ぽん、と叩いた。

「そういうことだから、ここからは遼弥くんにバトンタッチするね」

そう言うと奏ちゃんは、みんなの輪の中に戻ると、こっちこっち、と私を手招きした。私もみんなのほうへ歩み寄ると、腰を下ろした。

 「それじゃあ、今日の議題だけど、今からレジュメを配るから見てください」

遼弥くんは立ち上がり、A4で1枚の紙を一人ひとりに手渡しして回ると、自分のいた場所に戻って座った。

「レジュメには、これからの吹奏楽部の活動方針について、と、秋の定期演奏会について、それに、役割分担について、と書いたんだけど、俺たちが今一番考えなきゃならないのって、やっぱり定期演奏会のことだよね。でも、それより先に、活動方針について考えなきゃならないと思う。だって、方針次第で演奏会はどっちにでも転ぶから。だから、今日は役割分担を考えるまでには至らないと思う。とりあえず、今日は活動方針を固めるだけでもできたらいいな、と考えてます。ちなみに俺は、8人という人数には見合わない、無理なことはしないで、自分たちにできることをしようって考えなんだけど、みんなはどうかな?」

言い終えた遼弥くんは、私たちを見回した。みんながみんな、みんなの様子を窺っている。その中で、1回生のしょうくんが恐る恐る、しかしはっきりと口を開いた。

「無理なことじゃなくて自分たちにできることをしようって、具体的にはどういうことですか?」

空気を察して、遼弥くんがみんなを宥めるような口調で説明し始めた。

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