第一話 インタビューその一

(お久し振りです)

 こちらこそお久し振りです。直接こうやってお会いするのは、小説家の方と取材にいらっしゃった時以来ですね。

(その節は大変お世話になりました)

 いえ、私こそ大変お世話になりました。それにしても、まさか『女子プロレスラーの日常』という地味な内容の小説が、あんなにうけるとは思ってもいませんでした。

 あれは本当にいい出来でしたね。自分が主人公のモデルであることをすっかり忘れて、読みながら涙しました。(笑)

 仲間内でも大好評でしたよ。

 特に「家を借りにいって、申込書の職業欄を見られて、身体つきを見られて、最終的に断られる」話なんか、みんな多かれ少なかれ同じ経験をしているらしく、「よくぞ言ってくれまた」と。(笑)

(有り難うございます。それでは、本日は斎藤さんがプロレスラーになったきっかけから、伺って参りたいと思います)

 お手柔らかにお願いします。(笑)


(斎藤さんは、女子プロレス団体の研修生ご出身ではなくて、大学の格闘技系サークルのご出身と伺いましたが)

 そうなんです。大学在学中にスカウトされまして、女子プロレスの道に進みました。

 一応、入ってからしばらくは「プロレスの基本のキ」についての研修期間でしたから、『研修生出身』と言えないこともありませんが、まあ、横からの割り込みですね。それでよく先輩からいじめられました。

 ちょっと昔の話になりますが、小さい頃から体が大きいほうでして。(笑)

 小学校の頃は同級生の男子からよくからかわれました。

 最近、小学校の同窓会に行ったのですが、今ではお互いすっかり大人になった「当時いじめの先頭にたっていた男の子」に平謝りされまして。

 よほど復讐が怖かったんでしょうね。私は言われるまでそんなこと忘れていましたけど。(笑)

 それで、当時とても仲のよい親友がいて、いつも慰めてくれたんです。

 その子がまた、とてもおっとりとした可愛らしい女の子で、自分との差が眩しすぎて当時の私は素直に「有り難う」と言えなかったんですよね。

 今、あの頃の自分が目の前にいたら、ここに正座させて一時間は説教したい。(笑)

 中学生になると、もう吹っ切れていました。身体を動かすことに貪欲でしたね。いろいろな運動部の助っ人をやっていました。バスケットボール部でディフェンス専門とか。(笑)

(大学でプロレス同好会に入ろうと思ったきっかけは、なんでしょうか?)

 単なる勢いです。(笑)

 大学入学の初日にキャンパス内を歩いていると、後ろから急に「お姉さん、いい身体してるねえ」と声をかけられまして。

(それはまた古典的ですね)

 ですよね、自衛隊員の勧誘じゃあないんですから。私は、まさか本当にそんなことを言うやつがこの世にいるとは思っていませんでしたから、つい足を止めて呆然としてしまいました。

 運命の分かれ道でしたね。あの時、すぐに怒って立ち去ってしまえば、こんなことにはならなかったのに。(笑)

 まあ、しばらくの間「そうですが、何か問題でもありますか?」と思っていた私も私ですが。(笑)

 やっと「そういえば、女の子にそのセリフはないだろう」と気がついて、とても腹が立ったものですから、目の前でニヤニヤしている男の頬に平手打ちを食らわせようとしたところ――

(したところ?)

 なんと、受け止められてしまいました。いや、驚きましたねえ。当時の「本気の一撃」でしたからねえ。

 そして、そこにカウンター気味に「決めゼリフ」を言われてしまいまして。

(どんなセリフでしょうか?)

「もっと強い相手に巡り会いたくはないか」(笑)


 月刊格闘技通信一月号「美しすぎる女性格闘家の素顔 アマゾネス斎藤インタビュー」より抜粋

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