パパは覆面作家 第三章 先生と謎の格闘家?

阿井上夫

格闘家は夢想する。

 子供の頃大好きだった本の挿絵を思い出すように、相手の構えを思い出す。

 もうすっかり見慣れた光景。それが脳裏にリアルな姿で立ち上がってくる。

 前回の対決で敗れて以来、どれだけの夜、悪夢にうなされたことだろうか。

 こうして幻を相手に、数え切れないほどの戦いを重ねて幾度も破れてきた。


 深呼吸して身体中の力を抜き、それから足のばねを使って一気に突進する。

 小細工が効かないことは分かっている。そのままの勢いを叩きつけるのみ。

 正面からの攻撃を止めるためには、同じ力で逆から抑えなければならない。

 さらに、それを跳ね返すには、より強い力で逆方向に押し戻す必要がある。

 その点に攻略法の糸口があることを、やっと最近になって私は気がついた。


 そう。点や線の攻撃ではない。圧倒的な面の攻撃でなければならないのだ。

 面であれば、止めることが困難であり、跳ね返すには更に技と力が必要だ。

 その一瞬の隙を狙えば、相手の動きを封じ、ねじ伏せることができるはず。

 今まで学んだ格闘術の要諦を思い返し、相手の動きを止める技を抜き出す。

 更に幾夜を重ねて、幻を相手にした技の試行錯誤を繰り返した結果として、


 私はとうとう、夢の中で相手の手首を掴み、動きを封じることに成功した。


 後は簡単だ。関節技や絞め技など、いくらでもその先の攻略法は思いつく。

 準備は整った。しかも今なら私の気力と体力は自分史上最高の状態にある。

 残った問題は「どこにどうやって戦いの場を作り、その上に乗せるか」だ。

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