第二話 オセロ計画

 二〇二〇年に開催されたアクティブSETIに関する研究発表会は、以降の経過を考えると喜ぶべきか悲しむべきか悩ましいところではあるが、歴史的にとても重要な意味を持つことになった。


 なぜなら、この発表会に参加した日本人研究者が自身の研究発表の中で、とある発言を行ったためである。

 彼の関連する発言を抜粋すると、以下の通りとなる。

「現在のSETIは、アクティブにしてもパッシブにしても相手の文明が地球並みであることを前提にしている」

「地球より進んだ文明を持つ知的生命体であれば、地球から発せられた電波やメッセージを受信できない訳がない」

「それに対する応答がないということは、単にその情報が、彼らが読んでも全然面白くないものだからではないか」

「地球から地球外知的生命体に向けて発信される情報は、地球の存在を示す科学情報か具体的な数値が大半である」

「いわばカタログをダイレクトメールで送りつけたような情報に対して、わざわざ返信する酔狂な知的生命体はいないのではないか」

「わざわざ分かり切ったゴミみたいな情報を外に向けて発信するな、自分のところでなんとかしろよ、と思われるだけだ」

 実は、彼は個人的な趣味としてネット上で小説を公開していた。

 そして、自作に対する反応のなさに苛立ち、全面否定する酷評に憤った経験から、この発言を成すに至ったのである。


 彼の発言は、彼の望み通り大きな反響を生んだ。

「それはそうだわ。全然面白くない文章に感想なんか誰も送ってこないって。読み手の嗜好にあわせなきゃ」

「でも、相手の嗜好が分からないんだから、それにあわせることも無理じゃないの」

「じゃあ、一般受けしそうなテンプレートを選んで作ればいいじゃん」

「テンプレートだって書くのはそんなに簡単じゃない。書き手に技量がなかったら叩かれるでしょう」

「じゃあ、あれだ。ゲームだよ。それならばバトル展開で読み手の興味を引き付けることができるんじゃないの」

「そのためには前提となるルール説明が欠かせません。どうやって相手にそれを理解させるんですか」

 どこかで聞いたような議論が交わされて、最終的にルール説明が容易な「三目並べ」と「オセロゲーム」が候補として残った。

 三目並べというのは、三×三の枡内に〇と×の図形を交互に書き込んで、縦横斜めのいずれかに同じ図形を並べた者を勝者とするゲームである。

 歴史的にも古く、各国で異なる名前で同じゲームが行われている。

 過去において、暴走した人工知能を黙らせるために使用されたこともあるという、大変由緒正しいゲームであるものの、一つだけ欠点があった。

 このゲーム、先攻と後攻が最善の手を打てば、必ず引き分けになることが分かっている。

 仮にも地球外知的生命体に勝負を挑むのだから、そんな単純なものでは問題がある。

 だからといって、より複雑な五目並べにしてみたところで、今度は「先手必勝」であることが分かっているから相応しくない。

 従って「オセロゲーム」が選択された。

 こちらは一応、勝つコツはあるものの必勝法は見つかっていない。 


 方針が決まれば対応は早い。

 本計画は正式に「オセロ計画」と呼称されることとなり、全世界の科学者の半分が真剣に注目し、残りの半分が馬鹿馬鹿しいと無視する中、

・オセロゲームの基本的なルールの説明

・実際の対戦例を三つ

・地球側を先攻として、最初の一手が盤上に示された状態


  ○●

  ●●●


 が、信号と画像という二種類の情報で作成されて、銀河系の中心方向に発信された。

 そして、この時点では信号が地球外知的生命体に届くまでに、相当な時間がかかるものと科学者の誰もが思っていた。

 一般相対性理論によれば、光の速度を超えるものは存在しないからだ。

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