白と黒

阿井上夫

第一話 SETI

 地球外知的生命体による文明の存在を探査するプロジェクト、というものがある。


 英語の「サーチ・フォー・エクストラテレストリアル・インテリジェンス」の頭文字を取り、「SETI」という略称で知られているこのプロジェクトの発端をたどってゆくと、話は一九五九年まで遡る。

 この年、雑誌『ネイチャー』に一つの論文が掲載された。

 その論文の中には、

「地球以外にも知的生命体が存在するのであれば、現代の地球人の技術力を使って、その知的生命体の文明と電波による交信を行なうことは可能である」

 という一文があり、これに各国の科学者は衝撃を受けた。

「それならば、自分が最初に地球外生命体と交信に成功したという栄誉を受けようではないか」

 と考えた科学者により、以降、地球外知的生命体探査プロジェクトが各国で熱病のように沸き起こったのである。


 初期のそれは「SETI」ではなく「CETI」と呼ばれていた。

 英語の「コミュニケーション・ウィズ・エクストラテレストリアル・インテリジェンス」の頭文字と、「オズマ計画」の探査対象である「くじら座のタウ星」のラテン語名「CETI」をかけたものである。

 歴史上最初のCETIである「オズマ計画」は、アメリカの天文学者であるフランク・ドレイクの提案により、一九六〇年にウェストバージニア州にある米国立電波天文台の電波望遠鏡を使って実行された。

 雑誌に論文が掲載されてから一年後のことであるから、対応が相当に早い。

 オズマ計画を提案したフランク・ドレイクは、銀河系にどれぐらいの文明が存在する可能性があるかを計算するための方程式、「ドレイクの方程式」を提唱した人物でもある。

 さて、オズマ計画では「生命体が生み出される可能性のある惑星」を有する可能性のある恒星のうち、地球から近いものの探査が計画された。

 そして、その条件に合致する対象として選ばれたのが、地球から十一光年離れた「エリダヌス座のイプシロン星」と、十二光年離れた「くじら座のタウ星」である。

 この二つの恒星が三十日間に亘って観測されたが、結果として有望な信号は得られずに終わった。

 なお、「オズマ」という計画名称は、『オズの魔法使い』シリーズに登場するオズマ姫が、オズの国と無線による通信を試みたことに由来している。

 なかなか趣味の良い、味わい深いネーミングである。


 その後、

「一方的に電波を受けるだけの計画だから、CETIという名称では不適切だ」

 として、NASAの研究者がSETIを提唱し、今日ではそちらの呼び方が主流となっている。

 このSETIには「アクティブSETI」と「パッシブSETI」がある。


 パッシブSETIというのは、

「電波望遠鏡が受信した電波を解析することで地球外知的生命体の痕跡を探査する、あるいは光学望遠鏡を使って知的生命体が発する大輝度レーザー光を検出する」

 ものである。

 つまりは、CETIと同様に「外部から受信したものから地球外知的生命体存在の痕跡を探し出す」方法なのだが、この他にも、

「ダイソン球と呼ばれる、エネルギー利用のために恒星を人工物で覆った構造物の存在を前提に、光学的な観測結果と赤外線による観測結果の比較を行う」

 という、理論的には確かにその通りであるものの前提条件が風変わりなものも含まれている。


 一方、アクティブSETIというのは「地球外の知的生命体に向けて電波などのメッセージを送る」ものである。

 その中でも有名なものが「アレシボ・メッセージ」だ。

 一九七四年にプエルトリコのアレシボ電波天文台で、電波望遠鏡の改装記念式典にあわせて電波によるメッセージが、ヘラクレス座の球状星団に向けて発信された。

 この電波を一定条件に従って配置すると、初期のゲーム画面のようなドット絵で「一から十までの数字、DNAの二重螺旋構造、人間の姿、太陽系」などが表示される。

 ただ、実際にメッセージがヘラクレス座の球状星団に到達するまでに約二万五千年かかる。

 往復だと五万年以上かかることになるから、実際は意味がない行為に等しかった。

 また、一九七二年に打ち上げられた宇宙探査機パイオニア十号と、一九七三年に打ち上げられた十一号には、人類からのメッセージを絵で記した金属板が搭載された。

 これもアクティブSETIの一形態である。

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