ACT.4-2 合歓子へのごめんなさい

「ねむちゃん、これまでごめん……」

「仲間外れにしててごめんなさい」

「本当、ごめん」

 授業が始まる前、千沙菜、佐藤さん、高橋さんの貧乳同盟三人が、合歓子に向かって頭を下げていた。豊胸ジェルの件で、ずっと合歓子を遠ざけていたことに対する謝罪だ。

「ううん、解ってくれたらいいんだよぉ」

「わぷ!」

 合歓子が千沙菜を抱きすくめる。

 わざとかどうか、頭を抱え込んでそのGだけにグレートな乳房に挟むように。

「「え、わたし達無視!」」

「あ、佐藤さんと高橋さんは今日のお昼ご飯で手を打つよぉ?」

「しかも賠償を請求された!」

「井伊野さんって何げに酷い!」

 そんなこんなで仲直り。一件落着、と思った場面で、

「いいなぁ、音無、いいなぁ……」

「だからあんたはデリカシーを持ちなさいって!」

 合歓子の胸に埋まる千沙菜をガン見しながら指を加える鈴木君が、いつものごとく佐藤さんに殴られて、一段落となった。

 そうして迎えた昼休み。

「う、嘘……」

「こ、今月のお小遣いが……」

 学食に、佐藤さんと高橋さんの悲痛な声が響く。

 朝の約束通り、合歓子の昼食は佐藤さんと高橋さんの奢りである。

 二人も、合歓子が結構食べるのは知っていた。定食をメインに付け合わせに麺類、そしてデザートというのがデフォだ。それでも、この学食の相場ならどんなに高い組み合わせでも千円程度の出費だから、二人で五百円ずつ出せばいっか、と軽く考えていた。

 で、現在。

 佐藤さんと高橋さんは、それが甘い考えだったと思い知っていた。

 合歓子の前には、ミンチカツ定食、チャーシュー麺、焼き肉定食、ペペロンチーノ、塩鯖定食、たぬきそば、刺身定食、山菜うどん、お好み焼き定食、カルボナーラ等々。

 満漢全席もかくやとばかりに、テーブル一つを埋め尽くす量のメニューが並んでいた。

「この学食、安くて美味しいはずなのに、なんで一人五千円も払ってるの……」

「ほ、本当に、これ、全部食べるの? 私達への嫌がらせだったりしないよね?」

 支払いをさせられた佐藤さんと高橋さんは、余りの事態に辟易としながら、素うどん(百円)だけの昼食を余儀なくされていた。

「お昼は奢りだと思ったら、ちょっと自重しないで食べてもいいかなぁって思っただけだよぉ? 嫌がらせなんて全く考えてないよぉ」

 そう二人の言葉に応じながら、合歓子はあっという間に最初のミンチカツ定食を平らげ、チャーシュー麺を啜っていた。

「言ってなくってごめん。ねむちゃん、食べる気になったら底無しだから……」

 愕然とする貧乳同盟の同志に、千沙菜が申し訳なさそうに真実を告げる。

「ズズズ……そうだよぉ。これぐらい余裕だよぉ。バクバク……」

 言いながら、チャーシュー麺と焼き肉定食を空にし、次のペペロンチーノに取りかかる。

「で、でも、そ、そんなに食べたら太るよ……」

 佐藤さんが、合歓子の食べっぷりに圧倒されながら言う。

「食べた分はほとんど胸にいくから大丈夫だよぉ」

「そうなんよ! ねむちゃん、昔っから食べるけど胸以外は全然太らないんよ……あぁぁぁあ、こぉの乳横綱がぁ!」

 千沙菜が自分のカツ丼を食べる手を止めて、隣の合歓子の胸を揉みしだく。

「あ、あぁん♪ チュルチュル……ダ、ダメ、こぼれるぅ! チュルチュル……」

 揉まれて喘ぎながらも、器用にペペロンチーノを平らげてしまった。

「ま、まさか、また、大きく……」

 揉み終えた千沙菜は、その感触の微妙な違いに手を見てワナワナと震えている。

「うん。でも、まだGのままだよぉ」

「って、男の子も一応いるんだから、そういうことは……」

 千沙菜がいさめようとするが、遅かった。

「G!」

 鈴木君が合歓子の胸をジロジロと見ていた。

「だから、そういうのをやめろといつも言ってるでしょうが!」

「ぐはぁ」

 そして、佐藤さんに脇腹を突かれて苦しんでいた。

「ああ、大丈夫だよぉ。パクパク……鈴木君はモブキャラ佐藤さんの更におまけのモブキャラだから、パクパク……男の子とあんまり思ってないんだよぉ」

 そんな鈴木君に、塩鯖定食を食べながら容赦ない言葉をかける合歓子。

「え! 俺、そんな扱いだったの!」

「モブキャラって言われた……」

 揃って落ち込む二人を見つつ、自分は免れたと薄い胸を撫で下ろしてゆっくり素うどんを啜っていた高橋さんだが、

「あ、勿論、高橋さんもモブキャラだから。仲間外れにしてごめんね」

「酷い……」

 いらないフォローを入れられて、仲良く落ち込んでしまう。

「ねむちゃん、大分慣れてきたからって、もう少し歯に着せる衣持とうね」

「善処するよぉ。ハムハム……」

「それ、実際は対処する気ゼロの人の典型的な答え!」

 千沙菜のツッコミもものともせず、合歓子はたぬきそばの出汁の染みた揚げをのんびりと囓っていた。

 と、

「あ、そうだ、ちぃちゃん。わたしもバイトしようかって思うんだよぉ。パクパク……」

「へぇ……まぁ、いいと思うけど」

「バイトは一緒じゃなくて残念だけど、こればっかりは仕方ないね」

「そ、そうね、あたしのバイトは特殊だし、仕方ないよ、うん」

「ああ、そうか音無のバイトってペ……」

「だからいらんことは言うな!」

「げぶらばっ」

 鈴木君が何かを言おうとしたところで、佐藤さんがお盆で顔面を一閃。何か、鈴木君の首が変な方向に向いているように見えるが、気のせいだろう。

「え、何、鈴木君?」

「ああ、気にしないで!」

 不思議そうに問い返す千沙菜に、高橋さんが慌ててフォローを入れていた。

「でも、どんなバイト?」

「う~ん、このおっぱいを最大限に活かしたバイト、かなぁ?」

「え? いかがわしいバイトじゃないよね?」

「大丈夫だよぉ。でも今日が面接だから、採用して貰えるかは解らないんだけどねぇ」

「まぁ、健全だったらいいんだけど……面接、受かると良いね」

「うん、ちぃちゃんに応援して貰えたら百人力だよぉ。ありがとぉ」

 そうして、和やかに昼食のときは過ぎる。

 合歓子は、しっかりと昼休みの時間内にその大量のメニューを平らげ、千沙菜と二人、悠々と教室へと戻る。

 因みに、とんでもない量の食器の片付けは、残された佐藤さんと高橋さん、そして鈴木君がさせられることとなった。

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