風雲児 肆

 四時限目の授業が終わると、凌子、美月、雄飛の三人は真っ直ぐ生徒会室へと向かった。

 室橋高校の内装は二棟の校舎が併設するように並んでいる。校門の正面から見て右が一般棟。三学年が使用している教室棟である。一方、正面から見て左が多目的棟。特別教室や職員室、部室や倶楽部活動に使用する特別棟である。校舎は両棟共三階建てになっている。

 生徒会室は特別棟の三階にある。

 特別棟の三階は特殊な構造になっており、生徒会のみが使用出来る造りになっている。教室棟と特別棟は廊下に沿って教室が五部屋並んでいる。しかし、生徒会室がある特別棟三階は生徒会室の一室と資料室が一室、そして倉庫が一室の計三室で構成されている。部屋数は少ないものの、生徒会室自体は教室棟二室分の広さがあるのが特徴だ。

 三人が階段を上がると、生徒会室の前には既にお目当ての人物が到着しているようだった。美月はその人物へ近付いて行くと、

「ごめん。待たせちゃった」

「いえ。大丈夫です」

 翔真は笑顔で答える。

「そっか。じゃあ、鍵開けるからちょい待って」

 美月はブレザーの胸ポケットから鍵を取り出すと慣れた手付きで解錠する。美月が扉を開こうとすると、

「あの・・・神楽坂くん!」

 凌子は翔真の前に駆け寄る。翔真は凌子の貌を見ると、

「ああ、今朝の・・・校内の何処かで逢うとは思ってましたけど、こんなに早く貌を合わせるとは思いませんでした」

 初めは少しだけ驚いた様子だったが、直ぐに何時もの穏やかな表情に戻る。

「私もこんなに早く会えるなんて思ってなかった。校内で探すつもりでいたけど、美月ちゃんの御蔭でこんなに早く会えちゃった」

 凌子は少しハニカミながら真っ直ぐ翔真を見詰める。そのまま翔真を見詰めながら凌子は貌を緩ませている。それを見兼ねた美月は、

「立ち話は止めて取り敢えず部屋入んない?」

 生徒会室の中から二人を手招きする。中を覗くと、雄飛は既に椅子に座っている。持参していた弁当箱も既に巾着袋から取り出しているところはそつが無い。

「そっ・・そうだね!先ずは座ろう、神楽坂くん!」

「はい」

 凌子は少しだけ焦ったように翔真を誘導する。翔真が先に室内へ入って行き、凌子もそれに続くように入ろうとすると、

「あの恥ずかしがり屋の凌子ちゃんにもとうとう春が来たわけね♪」

 何時の間にか近付いていた美月は悪戯な笑みを浮かべ、凌子の耳元で囁く。凌子は美月の予想外の発言に貌を赤らめる。

「ちょっと美月ちゃん!」

 凌子は大声で叫びたかった。しかし、そんな事をすれば前を歩く翔真に筒抜けになってしまう。凌子は出来る限り声を抑え叫んだ。美月は凌子のあたふたする様子を見て益々にやつきが止まらない。

「まあ、いいじゃないの。花の女子高生が恋の一つや二つしてもバチは当たらないよ」

「だから、別にそーゆーのじゃないの!」

「《そういうの》ってどういうのよ?」

「それは・・・」

 美月に口では適わない。凌子は口をまごつかせ、何かを否定したいのか手を鶏のようにばたばたとさせている。端から見たら嘸かし滑稽な姿に見えるだろう。しかし、凌子は美月の言葉を否定したいという気持ちで一杯一杯だった。

「あの、どうかしたんですか?」

 幾ら小声で話しているとはいえ、あれだけ不自然な動きをしていれば誰だって振り返る。翔真は不思議そうな貌で凌子と美月を窺う。

―――バレちゃう!バレちゃう!

 凌子は更に気が動転しもう何が何やら分からなくなり、すっかり頭の上から盛大に煙をぷかぷかと噴かせていた。

―――まあ、これ位で勘弁してやりますか。久々に揶揄えたし♪

「何でもないよ。さあさあ、座った座った」

 美月は凌子と翔真の間にすかさず身体を割り込ませると、翔真の身体を半回転させ、椅子の方へと押し出す。翔真は頭に疑問符を幾つか浮かべながらも、黙ってそれに従う。

「ほら、凌子も早く!」

 美月は大声で凌子を呼ぶ。

「はいっ!」

 凌子はその声で漸く我に返った。

―――もう、美月ちゃんはすぐ意地悪するんだから・・・

 少しだけ頬を膨らませ、凌子は小走りで進むと椅子に座った。

 生徒会室の内部は会議用の机と椅子、書棚が三つ、小さな冷蔵庫。冷蔵庫の上には古めかしい茶器と湯呑みがある。広い割には物は少なく、質素な雰囲気を感じる。美月は少しだけ机を動かし椅子を持つと、翔真と向き合うように座った。凌子は翔真の隣、雄飛は翔真の右斜め前に既に座っている。

「えーっと、神楽坂くん。先ずはお礼を云わせて。凌子を助けてくれてありがとう」

 美月は椅子から立ち上がると深々と頭を下げた。

「そんなに畏まらないで下さい。頭下げられても困ります」

 翔真は少しだけ焦ったように立ち上がり頭を横に振る。しかし、美月はその姿勢を崩さない。

「これは私の心からの誠意と受け取って。凌子は私にとって家族と同じ位大切な親友なんだ。だから、これ位は頭を下げて当然なの」

 美月の声は少しだけ震えていた。立ち上がった翔真から美月の表情は窺えない。しかし、美月の気持ちは痛いほど翔真に伝わった。

「神楽坂くん。私からも・・・助けてくれてありがとうございました!」

 凌子も美月と同じように立ち上がり深々と頭を下げる。

「いえ。俺は別に大した事は―――」

「そんな事ない!」

 凌子は頭を上げ翔真の方へと身を乗り出し翔真の両手を包むように掴む。

「神楽坂くんが私を助けてくれなかったら、きっとあの時・・・私は死んでた。だから、神楽坂くんは私の命の恩人なの!」

 先程まで恥ずかしがっていたのが嘘のように、凌子は自然に翔真の貌を見る事が出来た。そして、自然と感謝の言葉を云う事が出来た。翔真は少し唖然としながら、凌子の感謝の気持ちをしっかりと心に刻んだ。

「俺も助けられて良かったです」

 翔真は凌子の手を握り直し、その気持ちに応えた。


「そろそろ席に着いて、落ち着いたらどう?」


 三人の世界を一刀両断するように雄飛は切り出した。三人は一斉に雄飛の方へ振り返る。

「神楽坂君にも充分感謝の気持ちは伝わったでしょ?それに、何時までも手を繋いでいたらお昼ご飯も食べられないよ?」

 雄飛の指摘に凌子ははっとすると、直ぐに翔真から手を離し勢いよく座り込んだ。勢いで手を握ってしまった事が今になって恥ずかしくなったようだ。貌を林檎のように真っ赤にしている。一方、美月はけろっとした貌をして既に椅子に腰掛けている。

「神楽坂くんも座って」

「はい」

 美月に促され翔真も席へとつく。其処で再び雄飛が投げ掛ける。

「そう云われれば、美月さんは神楽坂君にきちんと自己紹介した?」

 雄飛の指摘に美月はキョトンとしている。

「したよ。私がこの学校の生徒会長、だって」

 雄飛は美月の発言に溜め息を一つ漏らす。

「それは自己紹介じゃなくてただの役職紹介でしょ?ちゃんと名前云わないと」

「ああ。それもそうね」

 美月は一つ咳払いをすると、

「改めて。私は三年の砂川美月。生徒会長兼女子空手部の部長だよ。得意技は回転回し蹴りだから、校内で悪い事しないようにね」

 美月は品やかな羚羊のような足を座ったまま天井高く上げてみせる。それを見た凌子は「女の子がはしたないよ」と注意する。美月は「ちょっと位いいじゃん」と云いながらも、渋々足を下げる。

「俺は佐渡雄飛。この二人と一緒の三年生。生徒会副会長してます。よろしく」

 美月と凌子のやり取りを後目に雄飛はさらりと自己紹介をする。翔真は「宜しくお願いします」と頭を一つ下げる。最後に、凌子は椅子の向きを変え翔真の方へ向き合う。翔真もそれに合わせ凌子と同様に向き合う。

「えーっと、初めまして!私は三年の鳳凌子といいます。えっと、歴史研究部の部長もしているので良かったら入部してくれると嬉しいな」

 凌子は最大限の笑顔で自己紹介をしてみせた。翔真は「宜しくお願いします」と笑顔で応えると、三人全員が見えるように向き直る。

「それじゃ、俺も自己紹介を。俺は今日転校してきました神楽坂翔真といいます。学年は皆さんの一つ下の二年生です。どうぞ宜しくお願いします」

 溌剌とした声で翔真は自己紹介を終えた。

 一通り自己紹介が終わったところで、四人は昼食を取り始めた。三人は其々の弁当を広げ始める。雄飛だけは自己紹介をする前から食べ進めていたので、既に完食した弁当箱を片付け何やら書類仕事を始めている。

「神楽坂くんもお弁当なんだ?」

 凌子は感嘆の声を上げ翔真の広げた弁当箱を覗き込む。

「はい。一人暮らしなんで夕食の残り物詰め込んだだけですけど」

 翔真は照れ臭そうに云う。翔真の弁当箱は二つに分かれていた。一つの弁当箱には白米がびっちりと詰められている。もう一つの弁当箱には野菜炒め、卵焼き、漬け物、唐揚げが詰められている。凌子は「一杯食べるんだね。流石男の子」と嬉しそうに笑う。

「偉いねー。私なんか朝自分で作るとか無理だわ。ていうか、神楽坂君は一人暮らしなんだ。じゃあ、寮住まいしてんの?」

 室橋高校は遠方の学生も多いため学校の近くに男子寮と女子寮がある。風呂・トイレは共用であるが、部屋は一人一室与えられ朝晩の二食付きである。寮母さんが常駐し交代で警備員も巡回している。生徒の生活面も充分に考慮されているのだ。値段も手頃な事から定員はいつも満員状態だ。

「いえ。俺は学校から少し離れたマンションに住んでるんです。寮に入ろうと思ったら満員みたいで。この時期なんで空きがなかったんですよ」

「そうなんだ。確かに、生徒の入れ替えが大きいのは三月だからね」

「そうなんですよ。御蔭で親からの仕送りで生活費の遣り繰りするのが大変で。だから、この通り自炊して何とか質素倹約しようかと」

「成る程ねー。頑張れ若人よ。困った事があったら生徒会長に相談しなさい」

 美月は笑いながら翔真の肩に手を置く。翔真は「ありがとうございます」と美月の厚意にお礼を述べる。

「ところで、鳳先輩」

「ひゃい!?」

 凌子は翔真から急に名前を呼ばれ思わず素っ頓狂な声で返事をしてしまう。

「すみません。名前間違えてましたか?」

「違う、違う!さあ、どうぞ!」

 凌子は首を大きく横に振り否定してみせる。動揺は余り隠し切れていないが、翔真はそれで納得したようだった。

「あの、さっき歴史研究部の部長だって仰ってましたよね?」

「あ、うん」

 凌子はこくんと頷く。

「どんな活動してるんですか?」

 凌子はこれを入部者獲得の機会と思い、思わず目の色を変える。

 歴史研究部の部員は現在三名。凌子が部長を務め、二年生の正木美弥子が副部長を務めている。もう一人は幽霊部員と化しており殆ど貌を出す事はない。歴史研究部は実質二名だけで活動しているのだ。室橋高校の校則では部活動、倶楽部活動と認められる為には三名以上の部員が必要になる。要するに、幽霊部員が辞めてしまえば直ぐに廃部になってしまうのだ。

―――これは千載一遇のチャンス!同じ部活動だったら一緒に居る時間も増えると思うし・・・ダメ!そんな邪な理由で勧誘しちゃ!私は部長なんだから、歴史に興味を持った子がいるなら、部の事をきちんと説明しなきゃ!

 凌子は心の中で自身を鼓舞すると、

「歴史研究部はね、普段授業では習わない人物や歴史的な遺物を研究するクラブなの。資料を集めて研究する事は勿論、博物館に行ったり、その人物のゆかりの地に行ったりもしてるよ。去年は源頼光のゆかりの地である京都の大江山に行ってね、博物館も見て来たんだけど、それがまた感動しちゃって」

 凌子は部の説明を忘れ、去年の思い出に浸りながら得意の歴史談義に一人花を咲かせる。

 源頼光の説明だけでなく、数々の伝説や戦で使用した作戦等、凌子の弁は天井知らずと化した。最早、翔真に説明している事さえ忘れているらしい。

 御高説は行く河の流れのように続いていく。


「りょーこ。好い加減にしないと、神楽坂君置いてけぼりだよー」


 美月は凌子の弁当のおかずを摘みながら呆れるように云った。その親切な指摘に「へっ?」と間の抜けた声を出したのは云うまでもなく凌子だった。凌子は我に返り、翔真を恐る恐る見る。すると、翔真は苦笑いを浮かべていた。凌子は一人夢中になっていた自分が恥ずかしくなり見る見る内に貌を紅くすると、そのまま机に伏せてしまった。

―――やっちゃったぁぁあああ・・・

 心の中で叫んでも時は既に遅い。凌子は水を得た魚のように雄弁を振るっていた姿からかけ離れるように、すかkり黙り込んでしまった。

―――これはどうしたもんか・・・?

 翔真の目の前で凌子は貌を完熟したトマトのように真っ赤に染め俯いてしまっている。此処で後輩として取るべき正しい行動。翔真はそれを実行する。

「鳳先輩。とても興味深い話ありがとうございます。良かったら放課後に見学させてもらっていいですか?」

「えっ・・・?」

 翔真の提案に凌子は思わず貌を上げる。翔真は貌を上げた凌子にもう一度告げる。

「実は、俺もこう見えて歴史好きなんです。だから、放課後クラブ活動の見学に行かせてください」

「はい!喜んで!」

 凌子は咲き誇る花畑のように笑顔を取り戻し返事をする。美月は凌子の周囲にふわりふわりと桃色の花弁が飛んでいるに見えた。

「良かったじゃん、りょーこ」

「うん!」

―――まあ、嬉しそうな貌しちゃって。見てるこっちが恥ずかしくなるっての

 美月は満足げな表情を浮かべ凌子にアイコンタクトを送る。凌子はそれをしっかりと受け取ると、笑顔で返事をする。

 其処で、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴る。機械的な効果音は楽しい時間を邪魔する事この上ない。

「もう昼休み終わりか。五時限目は科学室かー。教室戻んのめんどいなぁ」

 美月は弁当箱を片付けると、気怠そうに椅子から立ち上がる。

「早く戻らないと授業に間に合わないよ」

「そうねー」

 美月は上半身を反らせ猫のように背伸びをする。翔真も急いで弁当箱を片付ける。

「二人とも急いだら?」

 一方、雄飛は未だ書類仕事を続けている。

「そういうアンタは何でそんな余裕なのよ?」

 雄飛は自身の隣の椅子を指差す。其処には授業の用意一式が置いてある。美月はそれを見ると湿った梅雨のような視線を雄飛に送る。

「そーゆーこと?」

「そういうこと」

「・・・凌子。教室戻るよ」

「うん。分かった」

 美月は足早に生徒会室を後にする。凌子もそれに続き教室を出て行った。と思いきや、開いた扉の外から栗鼠のように貌を出すと、

「神楽坂くん。歴史研究部の活動はこの棟の二階だから。部室の前に来てくれれば直ぐに分かると思う。放課後になったら来て」

「はい。分かりました」

 凌子は嬉しそうに手を振ると美月を追い掛けて行ってしまった。翔真も凌子に合わせて手を振る。教室には翔真と雄飛が残った。

 雄飛は書類仕事をやめ翔真の方に視線を向ける。

「―――流石、翔真だな。転校初日から俺と接触してくれるなんて手間が省けたよ。幾つか俺と《自然に》接点を持つ方法は考えていたんだけどね・・・」

 雄飛はブレザーの内ポケットから手帳を取り出し何枚か頁を捲る。雄飛はまるで慣れ親しんだ友を歓迎するようだ。

「買い被りだよ。本当に偶々、今日の朝に鳳さんを助けた。それだけ。俺もまさかこんなに早く雄飛と接触出来ると思ってなかった。ごく《自然》にさ」

 翔真は白い歯を見せニカッと笑う。

「そうか。まあいい。お前の事だから《上手く》事を進めたのだろう。なら、俺もこの状況を上手く利用させて貰う。―――それにしても、お前と組むのは半年振りになるか?」

「そんなもんかな。なに?まさか暫く俺と組んでなかったからって俺の腕前信用してないの?」

 翔真は冗談粧しつつも不満そうに声を漏らす。

「違うよ。お前と組むのが一番楽で助かる、って意味さ」

「ふーん。そういう事にしといてやるよ。―――それで、例の《標的》は?」

 翔真の笑顔が消え、眼の色が変わる。

 雄飛は携帯端末をスラックスのポケットから取り出すと、翔真に画面を向ける。其処には一人の女生徒が映っていた。否。《映っていた》という表現は相応しくない。携帯端末の画面は九区画に区切られており、その内の一つに女生徒は映っている。五時限目が始まる直前という事もあり、女生徒は教科書やノートを用意し自席に座っている。

「この通り。学校に居る間は隠しカメラで常時行動をチェックしてる。家には未だ侵入はしていないけど、外からは監視している部下がいる。学校内で見られないのは女子更衣室とトイレくらいかな。流石に其処までする必要性もないだろ?」

 翔真は画面を一瞥すると、

「俺もそれで良いと思うよ」

 雄飛は翔真が納得した表情を見せると、スラックスのポケットにそれを仕舞う。

「黒羽咲。一七歳。日本でも有数の華族である黒羽財閥の御令嬢。―――報告書も読んだけど、此処半年、至って学校生活は良好。友人関係も良好。家族関係も良好。非行や悪いお遊びも無し。そして、現在も何の兆候も見られないと・・・」

 翔真が訝し気に雄飛を見る。雄飛はその視線に気付くと、

「云うまでもないが、俺は一切失敗していない。この程度失敗する訳ないだろ?」

「御尤も。でも、此処まで動きが無いのも妙だな。警戒されてる・・・それとも・・・」

 雄飛は内ポケットに手帳を仕舞うと椅子から立ち上がる。

「《あちら側》が機を窺っている・・・と見て間違いないだろう?」

 その返答に、翔真は不適に微笑む。

「・・・そうだな。それに、俺を此処に寄越したって事は状況が動くってことだろ?ウチの大将が読み筋を違えるって事も無いしな」

「ああ。まあ、取り敢えず今は動きべき刻じゃない。暫くは《普通》の高校生活を満喫しておけよ。今日の放課後も約束した事だしな」

「そうだな。心に留めておくよ」

 雄飛は安心したように頷くと荷物を纏める。翔真もそれに続く。生徒会室を二人で出ると雄飛は施錠を行う。

「呉々も目立つ行動は避けるように。特に体育では絶対に」

「はいよ」

 翔真は元気よく返事をする。二人はそれから暫し無言のまま階段を降りていく。一階に着くと、雄飛が思い出したように口を開く。

「それから放課後。凌子さんの部活に寄る前に少し時間をくれ。念のため、そろそろ《仕掛け》をしておく」

「分かった」

 二人は廊下で別れ其々の教室へと向かった。

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