本編の4

「ねえ」

 少女の呼びかけに、青年は目を覚ました。じっとりとした湿気が指先の小枝にまとわりつき、朝露となっている。

「どうしたの」

「お腹がすいた」

 青年は手を差し出す。その繁みに、新芽は少なかった。

「かたい」

「ごめん」

「いいよ」

 青年は空を見上げる。あの日以来、ここまで曇り空が続いた日はなかった。幸い西に晴れ間が見え、数日以内にはまた陽の光を浴びられることが予想された。

「大丈夫なの」

「大丈夫」

 もっとも、あの日と全く逆のことが起こらないとも知れない。

「大丈夫なの」

「大丈夫」

 青年は少しだけ不安に駆られ、その表情の翳りは少女にも読み取れた。青年が何を思ったか、少女には分からない。それでも、何か無形の励ましが必要なように感じられた。

「ここにいるよ」

 抱擁と、高い体温から徐々に伝わるぬくもり。

「ありがとう」

 青年にとって、少女の存在は再び確かになった。沸き上りかけた恐れは、現実感に照らされ陰へと戻った。

「生きてる」

「生きてるよ」

「ありがとう」

「ありがとうね」

 そして雲が切れ、数日ぶりの陽が顔を出した。

 二人は眩しそうにそれを見上げると、どちらともなく歩き出した。


 歩き出した先に、二人は

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みどりの旅路 真賢木 悠志 @en_digters_sidste_sang

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