本編の3

「歩こう」

 その日、青年が言った。

「うん」

 少女は、躊躇いがちに頷いた。しかしひとたび顔を上げ、青年を見つめると、その瞳に既に迷いはなかった。

 2人は歩き出した。街にはまだ、僅かながら音があった。失われつつある音は、焚き火が燻るように静かだった。

 陽射しは暖かかった。つまり、それは随分先まで、休まずに進めるということだった。

「どうする。どこへ行く」

「北が良い。涼しいところ」

「わかった」

「ねえ」

「ん」

「なんでも」

「そっか」

 少女は一度だけ、名残惜しそうに街を振り返った。だが寝静まったような街は、何も返してはくれなかった。もう戻ることはないだろう。


 それでも、少女の瞳は

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