影笑う

 四月に入っても、夕暮れになれば風が冷たい。

 まだしまえないコートの前を合わせながら、私は俯いて歩く。そうして落とした目線が、路上にひょこひょこと動くものを認めた。

 それは影だった。

 アスファルトに落ちたマンションの影。その屋上の形の映しの上で、子供めく影が跳ねている。

 なんとはなしに顔を上げて、実像を追った。

 そして、おや、と首を傾げた。光線の具合からしてそことしか考えられない建物の上には、けれど誰の姿もない。

 一瞬のタイミングで隠れてしまったものだろうか。

 思いながら目を戻すと、驚くべきか、地上にはまだ影があった。


 子供は先程までの姦しい動きをぴたりと止め、明らかにこちらを見ていた。

 それから数秒して、ふっと表情を緩めた。

 目も口もない影なのに、どうしてかにっこりと笑んでいるのが知れた。

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