仕損じる

 細々と、押し入れの中から声がした。

 すわ不審者かとぎょっとそちらを見たが、声は弱く歌うように続くばかりで、それ以上の事は少しも起きない。

 じっと体を固くして身構えるうち、怖さよりも不思議の心が強まってきた。

 そろそろと足音を忍ばせて押し入れに寄る。

 ふすまに耳を押し当てて、歌声を聞き取ろうとしたその時、予想だにしない電話が鳴った。

 びくりと屈めた背を起こしたその鼻先を、襖を破って飛び出た腕が掠めた。丸太のように太い腕だった。比例して大きな手のひらが私の頭があった空間を幾度か握り締め、やがて無念げに押し入れに引き返していく。

 未だ喚き続けるベルをバックに、ひとつ、露骨な舌打ちが聞こえた。

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