見ていない

 夜道を歩いていると、唐突に光が差した。進行方向にある家の窓に灯りが点ったのだ。

 部屋の中の光源は大分強いようだった。

 ちょうどスクリーンのように、降りたカーテンにくっきりと濃い影絵めいて、人の輪郭が浮かび上がっている。

 外にプライベートを晒してしまっている事に、おそらく本人は気づいていないのだろう。

 薄暗い喜びが背筋を過ぎって、僕はそのまま窃視せっしを続ける。

 影は一日の疲れを緩和するみたいに大きく伸びをした後、両耳を塞ぐような格好で自分の頭に手をかけた。

 そうしてすぽんと音がしそうな気軽さでそれを外した。

 僕は慌てて目を伏せて、そうして、何も見なかった事にした。

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