山に立つ雲

 ここひと月、かんかんの日照りが続いていた。

 川は底を見せ地面はひび割れ、人も犬も猫も皆、暑さで顎を出している。そこかしこに乾き果てた夏虫なつむしの骸が転がって、猛暑の異常さを際立たせていた。

 テレビでは水不足と熱中症対策とが、毎日のようにまくし立てられている。そんな、ある日の事だった。


 学校の帰りにふと山を見たら、山頂からゆらゆらと揺らめく雲が立ち昇っている。すわ山火事かとぎょっとしたが、よくよく見て更に驚いた。

 それは雲ならぬ白蛇だった。

 山を三回みまわり半してなお余る巨大な蛇が、底抜けるの青空めがけてぐうっと体を持ち上げていくところだったのだ。その様は、丁度地表から発した飛行機雲のようだった。

 ただただ見守るうちに、鎌首は青の隙間に飲まれて消えた。それでもまだ尻尾は山肌に巻き付いたままなのだから凄まじい。

 それから、ほんの十数秒だった。

 遠雷が轟いたかと思うや一天にわかにかき曇り、空の底が抜けたような夕立が来た。

 濡れそぼりながら雨雲から視線を戻すと、蛇と確かに目が合った。

 それは赤い瞳を悪戯っぽくパチリと瞬かせ、素早く山向こうに姿を消した。

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