葉っぱのお礼

 ある驟雨しゅううの折、ひとりの老婆が傘もささずにずぶ濡れているのを見かけた。

 少し悩んだが、俺の家はどうせ目と鼻の先だ。足早に寄ると自分の傘をその手に押し付け、


「どうぞ。俺んちはもうすぐなんで」


 そう告げて逃げるように雨の中へ駆け出した。



 翌日、ドアの取っ手に貸したはずの傘が引っ掛けられていた。柄には小さな巾着きんちゃくが結わえつけられており、中には数枚の葉っぱが収まっていた。

 開けた途端、鼻先にひどく良い香りがした。蒸し暑くなりがちな昨今であるのに、まるで涼風に包まれたような心地になった。

 詳しくは知らないが、ポプリとかそういうものなのだろう。小粋なお礼だと思って部屋に置いておく事にした。

 

 それから半月になる。

 巾着の中の葉は不思議にもまだ枯れず、今も俺の部屋にある。

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