下に居る

 これもまた、寒の戻りというのだろうか。

 その日はひどく寒かった。雨の予報は半ば外れて、曇天から落ちてくるのは雪じみたみぞれである。それでも朝練には行かねばならないから、私は厚く着込んで家を出た。

 それでも外気は、覚悟していた以上に冷たい。その所為だろうか。人の姿どころか車の通る音すらなくて、世界は静まり返っている。

 私は白い息を吐きながら足早に歩き、そして近道である公園を抜ける途中でふと足を止めた。


 こつ。こつ。


 どこからかそんな、小さな響きが聞こえたからだ。

 だが辺りには私の他に、人っ子一人とていない。はてなと首を傾げて、そこで公園の池に気づいた。

 昨夜からの冷え込みで分厚く張った氷。その下に、何かが居た。

 濁った水の所為で定かには見えないが、それは頭と手足を備え、人の似姿をした影だった。形状は人に似るけれど、無論人であろうはずがない。


 こつ、こつ。こつ、こつ。

 

 ノックの音の間隔が狭まる。

 薄ぼんやりした影の頭の部分から、強烈な視線を感じた。どうしてか、その口元がにいと歪んで笑うのがわかった。

 やがてぴしりと、氷にヒビが入った。

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