下に居る
これもまた、寒の戻りというのだろうか。
その日はひどく寒かった。雨の予報は半ば外れて、曇天から落ちてくるのは雪じみたみぞれである。それでも朝練には行かねばならないから、私は厚く着込んで家を出た。
それでも外気は、覚悟していた以上に冷たい。その所為だろうか。人の姿どころか車の通る音すらなくて、世界は静まり返っている。
私は白い息を吐きながら足早に歩き、そして近道である公園を抜ける途中でふと足を止めた。
こつ。こつ。
どこからかそんな、小さな響きが聞こえたからだ。
だが辺りには私の他に、人っ子一人とていない。はてなと首を傾げて、そこで公園の池に気づいた。
昨夜からの冷え込みで分厚く張った氷。その下に、何かが居た。
濁った水の所為で定かには見えないが、それは頭と手足を備え、人の似姿をした影だった。形状は人に似るけれど、無論人であろうはずがない。
こつ、こつ。こつ、こつ。
ノックの音の間隔が狭まる。
薄ぼんやりした影の頭の部分から、強烈な視線を感じた。どうしてか、その口元がにいと歪んで笑うのがわかった。
やがてぴしりと、氷にヒビが入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます