最後の殺人

 膝の上で猫が死んだ。

 他の人間たちとは違って彼の手伝いを必要としない、安らかな死だった。

 あの病が猛威を振るいだして以来、猫は彼にとって唯一の友だった。

 徐々に冷えていく体を半日ほど抱いて過ごし、それから日当たりのいい木の下を掘って亡骸を埋めた。


 それから彼は自室に赴き、引き出しを開けて拳銃を取り出す。

 あの病に罹患りかんした者たちへの最終医療行為として、病苦に泣き叫ぶ人々への最期の慈悲として用いられてきた銃だった。

 いつか自分も同じ事をされるのだと免罪符のように思ってきたの、その自分がとうとう最後まで生き残ってしまった。実に皮肉な事だと彼は笑う。

 

 既にテレビもラジオも、雑音のみを流すようになって久しい。

 人類が、世界がどうなってしまったのか、彼には皆目見当がつかなかった。

 だが奇妙に確かで、そして静かな予感があった。あの流星群を境に、奇病の流行を契機に、全ては終わりへ向けて走り出した。自分以外の人間は、きっと全て滅び去ってしまったのだ。


 だから、いつかやろうと思っていた事をするなら今だと考えた。

 猫の眠る土の上にひざまずき、銃口を咥えた。目をきつく閉じ、引き金を引く。


 その日。

 彼はたった一人で、人類を滅亡させた。





※以上は猫又様よりの原案「殺人鬼が猫抱いてる」を元に創作したものです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る