札を切る

「猫に鰹節」などという言葉がある。

 好きなものの例えのようだが、ここでひとつ猫に関する豆知識だ。実は鰹節は猫の体によろしくない。尿結石やら腎不全やらを誘発しやすいのだそうだ。

 だからうちの猫も大層これを欲しがるけれど、絶対にやらないようにしていた。

 別に意地悪してるんじゃない。長生きをして欲しいからだ。

 だというのにこのバカ猫は、まるでそれを理解しない。俺が鰹節のパックを開けるたびに未練がましくにゃあにゃあと鳴き、いつまでも足元にまとわりついて離れない。

 業を煮やしてある日、とうとう怒鳴りつけてしまった。


「うるせーな! 猫語じゃわかんねーよ、日本語で喋れ!」

「かつぶしほしい」


 ここでもうひとつ、猫に関する豆知識だ。

 猫についてはこんな迷信がある。猫はその生涯のうちで一度だけ、人の言葉を話すのだという。そうして飼い主に日ごろの感謝を述べたり、未来を告げたりするのだ。

 だというのに、あのさあ。

 お前そんな貴重な札を、こんなんで使っちゃってよかったのかよ。ホントによかったのかよ。

 呆れ果てながら鰹節を満喫する猫の腹を足裏でぐりぐりとしたが、ヤツは喉を鳴らすばかりで何も言わない。

 お前絶対長生きするわ、俺が世話焼くまでもないわと、深くため息をついた。





※以上は雛菊 みぃ様よりの原案「体に悪いと貰えない好物の鰹節を手に入れようとする猫」を元に創作したものです。

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