雪の下

 10年だか20年だかに一度の大雪になると聞いてはいた。

 いたのだが、どうせボジョレー・ヌーボーの出来を讃えるコピーと大差なかろうとタカをくくっていた。

 その結果がこのザマだった。

 雪は夜になっても降り止まず、ひたすらに積る。

 街はすっかり雪込められて、人は門戸を固く閉ざしている。電車は遅れ車は止まり、横断歩道は覆い隠されてどこにも見えない。新雪を踏めば足首どころか膝下までが埋もれた。

 幸いに降るのはさらりとした粉雪で、体に積もっても濡れそぼるという事はない。

 なので足元の案内に、傘を畳んで杖がわりに突き刺して歩いていた。


 ようやく我が家が近づいて、ほっとした気持ちで足を早めた、その時だった。


「痛い!」


 傘を刺した雪の下から悲鳴が上がった。

 慌てて引き抜いて、ぽっかりと空いた小さな雪穴を覗く。

 当然ながら、そこには雪のほか、何もありはしなかった。

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