ご自由に

 横断歩道の中ほどに、ダンボールの箱があった。

 潰れて平たくなったものではない。きちんと立方体に組み上がった箱である。

 交通量の少ない通りとはいえ、それがあるのは車道の真ん中だ。き潰されていないのも、けられていないのも不思議な事と思えた。


 箱の外面には何の印字されていなかった。中身は不明瞭である。だが側面にはマジックか何かで、「ご自由にどうぞ」と大書きされていた。

 奇妙に胸が掻き立てられた。箱の中を見たいと、激しく思った。


 我知らず踏み出しかけたその時、クラクションが鳴り響いた。一台のトラックが遠慮会釈のない速度で、慌てて退いた鼻先を走り抜ける。


 車が行き過ぎたその後に、箱は影も形もなかった。

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