星明かり

 一枚の絵があった。

 そこに描かれているのは灰色の路地。そして光明の一筋もない暗い空。道は吸い込まれるように奥へ奥へと伸びており、その先は空と一体となって黒に溶けている。 

 暗澹あんたんたる気配のこの絵は、とある画家が未来への絶望を塗り込めて仕上げたものなのだという。


 絵には、まだ悪い噂がある。

 それは人を誘い込むのだ。路地の暗がりに招いて迷わせて、そのまま隠してしまうのだという。

 そんな事があるものかと切り捨てたいところだが、実際にこの絵の所有者たちは、次々に失踪を遂げている。


 そんな奇怪な現象に終止符を打ったのはひとりの、やはり画家だ。

 彼は何を思ったか、たらい回しにされていた絵を引き取った。そして空に点描を、つまりは星を描き足した。


 要は暗がりをなくしてしまおうという子供だましのようなやり口だが、結論から言うと、彼は失踪しなかった。

 それどころかやがて画壇に認められ、巨匠として名を知られるようにまでなった。

 件の絵は今も彼の屋敷に飾られていて、ほのかな星明りが、その道の先を照らしている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る