重しをする

 校庭の片隅に水飲み場がある。教室からは遠いので、あまり利用する生徒はいない。

 夏場の体育の後、そこへ口をすすぎに行ったら、地面を覆うコンクリがひび割れているのに気づいた。


 自然に入ったヒビにしては奇妙だった。きっちりと直角に、2m四方の正方形を描いて線が走っている。

 しかもその矩形くけいの内側だけが、膨れ上がったのか浮き上がったのか、とにかくおかしな具合に波打って歪んでいた。

 まるでその下から何かが必死で這い出てこようとしている。

 馬鹿馬鹿しくも、そんな印象を受けてしまうひび割れだった。


 しばらく考えてから見回して、その上にいくつか、大きめの石を積んでおいた。

 何の解決にもならないただの気休めだが、何かしておきたい気持ちだったのだ。



 後日様子を見に行くと、ひび割れの上の石が増えていた。

 どうやらここに不安を抱く人間は、僕ひとりではないようだった。

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