ぶら下がる

 近所の公園の桜は、枝を歩道の上にまでぐうと差し出している。

 お陰で花の頃のみならず、随分と存在感があった。


 ある夜公園側を通りがかると、その桜の枝から奇妙なものがぶら下がっていた。

 夜目にも白いそれは人間の足である。

 しかし、誰かが木登りをしているというわけではない。

 見えるのは足の片一方だけ。太ももの付け根辺りまでを素裸に晒して、残りは樹上の闇に溶けている。


 用心しいしい観察すると、どうやら子供の足のようである。爪は綺麗に切り揃えられ、毛は一本もなくつるつるの肌をしていた。

 そのつま先は大人の頭くらいの高さで、ゆらり、ゆうらり揺れている。

 気味が悪かったから、大きくそれを避けて歩いた。


 しばらく行くと背中の方で、きゃっと悲鳴が上がった。

 振り返ると桜の枝のその下で、女性が頭を抑えてうずくまっている。

 不用意に足の近くを歩いて、蹴られたものであるらしかった。

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