二度と帰らない

 大学進学で上京してから約四ヶ月。夏休みになって、久しぶりに実家に帰った。

 懐かしい玄関でチャイムを鳴らすと、ドアはすぐに開いた。


「おかえり」

「おかえり」

「おかえりなさい」


 俺を出迎えた声。

 それは父の声であり、母の声であり、弟の声である。

 なのに目の前にいるのは、それを発したのは、顔も知らない人間たちだった。少しも見覚えのない別人が、まるで俺の家族のような素振りで家にたたずんでいた。

 絶句する俺へ向けて、彼らは揃って笑んでいる。

 にこにこと。ただ、にこにこと。

 それは形をなぞっただけで感情のない、能面じみた笑みだった。

 俺は家へは一歩も入らず、そのまま駅へ駆け戻った。彼らは追っては来なかった。



 今でも、実家から電話が来る事がある。たまには顔を見せろと、留守番電話へ父か、母か、弟の声が言う。

 無論、あの家に帰る事は二度とない。

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