道を訊く

 月曜日の午後の事だった。

 一人分の簡単な昼食を終えて、子供たちが帰ってくる前に夕食の買い物に行こうと外に出た。

 快晴だが風は涼しい。そんな陽気の中、近隣の商店街目指してのんびりと坂を下っていく。

 すると、


「すみません」


 ひとりの少女に声をかけられた。

 日傘を差した、まだ中学生くらいの女の子だった。夏休みはもう終わって平日だというのに、学校はどうしたのだろう。


「この坂の上に、今も牧場はありますか?」


 私の怪訝な顔も知らぬげに、彼女は続けて道を訊く。

 けれど牧場など知らなかった。あったと聞いた事もない。


「どこかと間違えていませんか。この上にあるのは団地ばかりですよ」

「でも、ちょっと前にはあったはずなんです」

「それはどれくらい前かしら?」

「えっと、五、六十……あ」

 

 途中で言葉を切ると、少女はちかちかと瞬きをした。それから照れ隠しめいて小さく舌を出し、一礼して背を向けた。

 私は遠ざかる日傘を見送って、きっとからかわれたのだと、そう思う事にした。

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