台風の目

 強烈だった雨音が、いつの間にか絶えているのに気づいた。

 外を見れば日の光が差しこんでいる。訝しく思って窓を開けたら、ここら一体だけぽかりと青空だった。

 これだ台風の目というものか。

 話には聞いた事があったが、見るのも体験するのもこれが初めてだ。

 

 しばらくぼけーっと空を眺めていた俺は、ふと遥か上空に、何か黒いものがあるのを気づいた。

 それはゆるゆると動いてこそいるが、決して雲でも飛行機でもない。

 目を凝らすうちに、正体が知れた。

 それは巨大な眼球だった。片方だけ、ひとつだけの目の玉が、雲の高さに浮いて流れていくのだった。


 目玉は地上を睥睨へいげいしながら、悠然ゆうぜんと空を渡っていく。

 そうして俺の頭の上を通りしな、ひとつゆっくりと瞬きをした。

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