霊を見た

 私に霊感はない。

 今までそう思って生きてきたのだが、考えを改めようと思う。


 発表前のレジュメを見直そうと入った大学のカフェテラス。そこで凄いものを見た。

 数人の男性がひとつのテーブルについていた。

 遅い昼食の最中らしく、ひとりを除いた全員がうつむくように皿とにらみ合っている。ひとりだけは仲間を見ながら、なごやかな挙措で何かを話してた。

 その彼の背後で、髪を振り乱し目を血走らせた女が叫んでいるのだ。


「見なさいよ。こっちを見なさいよ。どうして見ないのよ。こっちを見ろ。見ろ見ろ見ろ見ろ──!」


 だが背後に立たれている男性は、彼女をまったく無視している。相変わらずの雰囲気で、仲間たちへ言葉をつむいでいる。

 でも周りの彼らの方は、彼女が見えているのだろう。聞こえているのだろう。皿を睨んだままで顔も上げない。


 私に霊感はない。

 今までそう思って生きてきたのだが、考えを改めようと思う。


 だってあの女が霊じゃないとしたら。

 そっちの方がよっぽど怖い事だと思うのだ。

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