俺のこめかみには傷がある。

 指輪をつけた拳で殴られた痕だ。

 子供の頃、母親に買い物に行かされた。その折、商店街の人ごみでいきなり殴られたのだ。俺は昏倒して入院し、犯人は未だ捕まっていない。


 この傷の所為かどうかは分からない。

 けれど俺は以来、ひどく短気で暴力的な性格になった。発作のような激情が起こると抑えられず、周囲の人や物に当たってしまう。


 今しがたもそうだった。

 目的もなく商店街の人ごみをぶらついていた俺は、向こうからやってくるガキをすれ違いざまにぶん殴った。妙に幸せそうなその顔に、ひどくイラついたのだ。

 ガキは物も言わずにブッ倒れ、俺は騒ぎに乗じて上手い事逃げた。

 死ぬまではいかないだろう。だがゴツい指輪をはめたままで殴ってやったから、傷は一生残るだろうと思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る