罪悪感

 河原沿いに犬の散歩をしていた。

 すると夕焼けの中、こちらの川岸に黒い影法師がある。ぼんやりと川面かわもを見つめて佇んでいるようだった。

 身動みじろぎひとつしないし、何をしているのだろう。気になったが、あまりじろじろ見るのは失礼かと思って目線を外す。

 少し歩いてから、ちらりと横目でまた窺った。

 すると、いない。


 え、と思って体ごと振り返ると、影法師は向こう岸に居た。

 川幅は十数メートルはある。目を離していたとはいえ、ほんの少しの間に渡れるものではとてもない。 影法師は相変わらず川の方を向いている。それはつまり、こちらを向いているという事だ。

 なんだか急に怖くなった。

 目を離したらその一瞬で、またこちらに戻って来るのではないか。そうしたらもう逃げられないのではないか。そんな気がした。


 視線を逸らさないままじりじりと歩を進めて、やがて前を見ずに行くのも限界になった。

 こうなったらと思って、一瞬だけ前を向く──素振りをしてすぐに目を戻した。

 すると川の中程なかほどで、ぱしゃんと水しぶきが上がったところだった。影法師はどこにもなくなっていた。

 なんだか、悪い事をした気分になった。

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