兆し

 端午の節句の頃、隣の家の鯉のぼりが青空を悠々と泳いでいるのを見た。

 随分と立派なものを飾っているなと思って眺めていたら、不意に真鯉だけが、緋鯉と子鯉の向きとは真逆に吹き流れた。

 どこかに絡んだのでも、風向きが変わったのでもない。

 しかし何故か真鯉だけが、風流かぜながれとは別方向に、逆風に喘ぐようにはためいている。

 不思議な事もあるものだと首を捻りながら家に戻った。 


 翌日、その家のご主人が自殺した。

 奥さんと息子さんと、上手くいっていなかったのだという。

 ふと気になって見上げたら、鯉のぼりはもう屋根になかった。

 或いは、最初から飾られていなかったのかもしれない。

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