花畑

 その海辺には噂があった。

 夏のある時期そこで遊泳すると、無数の白い手が足を引くのだという。掴まれた者は大抵溺れて死ぬ。

 世間的には潮流れが悪い場所だという事になっていた。

 そればかりが理由ではないだろうけれど、ある時その浜辺が埋め立てられると決まった。埠頭として整備するのだという。


 しばらくすると、そこに噂が立った。

 夏のある時期夜釣りに行くと、埠頭中に肘から先だけの手が生えているのだという。

 気を引かれて、見物に行った。

 すると確かに噂の通り、無数の手が空へと悲しく突き出していた。


 風もないのにゆらゆら揺れる、白く半透明の、手、手、手。

 その様はまるで、一面の花畑のようだった。

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