消失

 頼子と加菜子のふたりが肝試しに行った。

 雑誌にホラースポットとして紹介されていた神社が、たまたま近所だった。発端はそんな程度のものである。

 私も一緒にどうかと誘われたのだが断った。

 夜中わざわざ抜け出して、そんな真似をするのは馬鹿らしい。そう思ったからだ。

 結果として、それは正解だった。


 頼子と加菜子はその晩、二人揃って交番に駆け込んだ。

 頼子は「加菜子が行方不明になった」と言い、加菜子は「頼子が行方不明になった」と言った。相手をした警官は、最初何の冗談だと思ったそうだ。

 けれどそうではなかった。

 頼子は加菜子の事を、加菜子は頼子の事を、お互いにまったく認識できなくなっていた。


 それから数年が経つ。

 未だふたりにとって、お互いはあの夜に消えたきりらしい。

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