首振り地蔵

 フラれた友人の自棄酒に付き合って、結局ヤツの部屋に泊まり込む事になった。

 うとうとと眠って明け方、喉が渇いたので近くの自販機まで買出しに行こうと思い立った。

 友人はといえば、まだ寝言で女の名前を呟いている。起こすのは不憫ふびんだったので、不用心だが施錠はせずに部屋に出た。


 外はまだ薄暗い。夜の気配の方が強くある。

 ペットボトルの緑茶を二本ほど購入して、さて戻ろうと振り返ると、目の前に地蔵が居た。

 いきなり地蔵が現れたのも驚きだが、しかもそいつは物凄い速さで首を振っていた。まるでヘッドバンキングのような有様である。

 不覚にも「うおっ」と叫んで仰け反った。

 

 が、地蔵はそれ以上何もして来ない。ただ首を縦に振り続けるばかりだ。

 実害があるまで待っているのも馬鹿らしい。三十六計逃げるに如かずと、俺はとっとと友人の部屋に逃げ帰った。

 最後にちらりと見返ると、地蔵は視線を俺に据えたまま、まだ頭を振っていた。


 戻ると、友人は上体を起こしてぼんやりしていた。

「飲むか?」と訊くと「飲む」と答えたので、ペットボトルを放ってやる。

 それでヤツの目も覚めたようだったので、先程の怪事を話した。

 すると、


「どっちだった!?」


 襟首を掴んで問い質された。


「縦と横、どっちに首を振っていた?」


 剣幕に驚きながら縦だと答えると、ヤツは明らかにほっとした。


「ああ、それなら大丈夫だ。お前、近々何かいい事あるぞ。よかったな」


 地蔵が首を横に振っていたら、俺はどうなったのだろう。

 疑問を覚えたが、尋ねる度胸はちょっとなかった。

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