部屋から出ない

 ご町内の柿崎さんの家から火が出た。

 冬場の事で火の回りが早く、全焼だったという。その折、ご長男が亡くなった。

 ご町内とはいえ、柿崎さんとは親しく付き合いがあったわけではない。けれどもその長男の噂は、色々と口伝くちづてに聞いていた。

 所謂いわゆるひきこもりで、ずっと部屋から出なかったのだという。ある意味重荷が失せたのだと、口さがなく言う人もいた。

 そうした風聞を嫌ったのか、やがて柿崎さんは越していってしまった。



 焼け跡が綺麗に片付いた頃、別の噂が立った。

 幽霊が出るのだという。柿崎さんの家だった敷地の中空、丁度例のご長男の部屋があった二階の辺りに、男の影が現れるのだと。

 好奇心から、自分も見物に行った。

 噂通りに影は出たが、しかしじっと膝を抱えて動かない。

 そこにはもう部屋どころか家も家族も何もないのに、ただ浮かぶように座り込んで動かない。


 あまり面白い見ものではなかったので、数分で飽きて家に帰った。

 七十五日もせぬうちに、忘れ去られるのだろうと思った。

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