出て行く

 新歓コンパでいい感じにほろ酔いになって、あたしはハレルヤハレルヤと連呼しながら家に帰った。

 省みてみれば我が事ながら、なんて迷惑な女だろう。でもその時は酔っていたので全然気にしなかった。

 鍵を回してノブを捻って、ただいま麗しの我が部屋よ。そしてドアばたん。

 一連のアクションを流れ作業でこなしたら、ラストのばたんの音がせず、代わりに何かおかしな手応えがした。


「あん?」


 酔眼で見下ろすと、青黒くて鱗のある、なんかキモい尻尾みたいのがドアに挟まってた。

 ぎょっとして身を引いた。

 挟む力の緩んだその隙に、尻尾はさっと外へ消えて失せた。

 酔いなんて一瞬で吹っ飛んた。半泣きで友達に電話かけたら言い切られた。


「それは入ってきたんじゃなくて、出てったんだと思うな。もう部屋にはいないよ」

「マジで!?」

「マジです」


 そういえばそうだ。言われてみればそうだ。

 だって入ってきたなら尻尾の向き逆になるはずじゃん。ラッキー。


「つまりそれは今まで部屋にいたわけで、むしろこれまでの方が危なかったんじゃないかな」

「マジで!?」

「マジです」


 なんだよどういう事だよあたしの部屋。愛しの我が家だと思ってたの裏切りか。あたしの片思いだったのかよ。

 でもまあとにかく出てってくれたのならもう大丈夫。そうポシティブシンキングしようとしたら、


「部屋にお住まいなのが、それ一匹だけだったとは限らないんだけどね」


 お前なんか大嫌いだー、と叫んで電話を切った。

 次の日燻煙くんえんタイプの殺虫剤を買いに行った。

 それからよくよく考えてみたら、あの子はあんまり悪くなかった。後で謝っておこうと思う。

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