攫われる
友人とふたりで旅行に出た。
レンタカーを交代で運転していく貧乏旅行だ。カーナビすらない安い車なので、初めての道は互いの案内が頼りである。
俺が運転手の折に、目的地の近くに差し掛かった。
「この次、どういけばいいんだ?」
雑談を中止して隣にそう問うたが、返事がない。
ちらりと横目を使うと、友人は消えていた。ドライブマップだけが助手席の下に落ちていて、彼の痕跡はそれ以外に何一つない。
慌てて路肩に寄せて停車した。
冬の事だから、車内は暖房していた。けれど彼の側の窓は、いつの間にか薄く開いていた。
人の体など通るはずもない隙間だが、どうしてか友人は、そこから
きっと、もう帰るまい。
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