一日一手

 縁側に据えた将棋盤を覗きにいくと、既に一手指してあった。

 私は盤面を睨み、じっくり長考してから自分の駒を動かす。そうしてその場を離れた。

 この一局の敵手の姿を、私は見た事がない。ないが、おそらくそれは、狐狸妖怪の類なのだろうと思っている。


 縁側の盤面は、私の見ていないうちに、一日一手だけ動く。

 動いているのを見つけたら、私も一手だけを指す。

 勝敗がつくまで、さて、どれくらいかかるやら。

 気の長い話ではあるが、別段急く勝負ではないから困りもしない。それにこの対局のお陰で年寄りの一人暮らしに、張りが出たような気さえしている。

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