小雨女

 その日は朝からしとしとと、冷たい小雨が降っていた。

 幸い予定のない休日であったから、家でごろごろと本を読んでいた。するとこつこつと、何者かが庭に面した窓を叩く。目を上げるとそこには女が居た。


 闇のように、ありえないもののようにその髪は黒かった。

 紙のように、生きてはいないもののように肌は白かった。

 片手には包みを下げている。それは西瓜すいかくらいの大きさをしていた。


 空いているもう一方の手で、女はこちらを差し招いた。誘われるがまま、ふらふらと靴下のまま外に出かけて、そこで我に返った。あんな怪しいものの手招きに応じるなどありえない。

 女はこちらが正気に戻ったのに気づくと、にたぁと笑った。口腔こうこうは血で染めたように赤かった。そこに歯は一本もなかった。


 やがて女は雨に消え、それから遠く、サイレンの音が耳に届いた。

 後になって聞けば、隣家の息子が殺されていたのだそうだ。

 どうしてかこの雨の中、裸足のまま玄関先に出ていて、そこで首をねじ切られて死んでいた。そして胴を離れた首は、どこにも見当たらないのだという。

 あの女の提げていた包みが思い当たった。

 もしあの時、招かれるがまま外に出たなら。

 自分もまた、同じ目に遭っていたのだろう。

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