忘れるな
夜半、重苦しい気配で目が覚めた。
すると枕元に誰かが正座している。跳ね起きようとしたが、体は少しも動かなかった。
仕方なく精一杯の横目で、鎮座する人物を窺った。それは小坊主のような
「お前、」
ぬう、と、突然小坊主が俺の顔を覗き込んだ。それは顔というにはあまりに異様だった。全体は白粉をまぶしたように真っ白く、目も耳も鼻も口もない。ただまん丸なだけの頭部だった。
「忘れているだろう」
どこから出しているのかも知れない声でそれは言う。何を、と聞き返したかったが、体は変わらず動かない。問うこともできない。
「忘れているだろう」
白い皮膚のその下がもこもこと
「忘れているだろう」
また飛び出た。何の器官でもない黒い玉が、出来物のようにぼこりぼこりと膨らみ出ては増えていく。不気味だった。
「忘れるなよ」
最後に顔をぐっと近づけられた。
うわ、と叫んで今度こそ本当に飛び起きた。夢の中で目を覚ます夢を見ていたらしかった。
全身に嫌な汗を掻いている。ひどく喉が渇いた。
何か飲もうと冷蔵庫を開けると、ごとり。なんの弾みか落ちてきたものがある。
それは豆大福だった。後で食べようと蔵庫に放り込んで、それきり存在を失念していた。
とっくりと眺めれば、見事な黒と白である。なるほどなあと得心した。
賞味期限は一日過ぎていたけれど、きちんとおいしくいただいた。
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