鬼一口

 最近、家の天井裏で小さいものの足音がする。それもひとつではなく複数。ねずみでも棲みついたのだろうか。

 どう対処しようか悩んでいると、「俺が見てやるよ」と彼氏が軽く請け負ってくれた。

 押入れの上段に上がって天井板を外して、彼は天井裏に頭を突っ込む。


「うーん、よく見えないな。懐中電灯ある?」

「あるよ。待ってて」


 取りに行こうと離れようとしたあたしの耳に、


「あ」


 そんな間の抜けた声が聞こえた。彼氏はそれきり何も言わない。


「どうしたの?」


 気になって戻って膝を揺する。するとぐらりと彼の体が傾いた。なんの悪ふざけかそのままもたれかかってくる。心配が反転して苛立った。


「ちょっと、やめてよ、何?」


 その体を押しのけて抵抗のなさにあれと思って、それからあたしは悲鳴を上げた。

 彼の両肩の上には何も乗っていなかった。

 食いちぎられた頭部の痕跡の他には、全く何もなかった。

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