見下ろされる

 腕の骨を折って入院をした。

 入院生活は意外と楽しかった。当然身の回りの事に不便は出たが、体自体は健康だし歩き回るのに支障はない。

 忙中ぼうちゅうかんありの言葉通り、病院にもひと呼吸のように暇なタイミングというのがあるものだ。そういう時機を見計らって話かけたりもして、職員の人たちとも仲良くなった。


 やがて退院の日が近くなって、その前日。

 夜更けにふっと目を覚ますと、ベッドの側に親しくなった看護婦さんのひとりが立っていた。

 声をかけようかと思ったが、何故かそうしてはいけない気がして寝たフリを続けた。

 彼女はじっと俺を見下ろしている。何をするでもなく、何を言うでもなく、ただじっと。

 それだけなのに、どうしようもなく恐ろしかった。恐怖で呼吸が乱れそうになって、いつ空寝そらねがバレるか気が気じゃなかった。


 そんな状況にありながら、いつしか俺はまた寝入ってしまったらしい。気がつくと朝になっていた。

 退院の時、例の彼女はいつもの笑顔を見せて接してくれたけれど、こちらとしては不気味で仕方なかった。

 もしまた何かあったとしても、二度とあの病院には入院しまいと決めている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る