愉快犯

 バス停のベンチに老人が腰掛けていた。

 夜は更けて、もうバスなど来ない時刻だ。もしかして徘徊老人というやつだろうか。気になって様子を窺っていると、ぐるんと突然、老人の首が回った。

 体の向き、肩の位置はそのままに、首だけが180度回転してこちらを見た。

 硬直する俺を尻目に、老人の首はぐるぐると回る。肩の上で回り続ける。

 やがてぴたりと停止して、老人はまたじっと俺を見た。なんの感情もない、ただ真っ黒い瞳だった。いつまで経っても視線は外れない。やがて俺は意を決して、じりじりと下がり始めた。

 こちらが動いたらあちらもアクションを起こすのではという危惧きぐがあったが、幸い老人はただただ、こちらを見つめているだけだった。


 数メートルも離れたろうか。

 何を思ったか老人は、再びぐるぐると首を回し始めた。

 その様は、どこか愉快そうですらあった。

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