間違える

 3-3にはぬしがいる。

 それは薄汚れた水槽の中を泳ぐ出目金だ。片目が潰れていて見た目がひどく不気味で、だから主などと呼ばれるのだろう。


 その主にまつわる噂もある。

 夕方、教室が真っ赤に染まる頃。誰にも見られず聞かれずに、主の水槽の前で憎い相手の名前を三度唱える。すると三日のうちの相手は死ぬ。

 子供だましだ。

 でも僕は子供だったし、父とは折り合いが悪かった。酔っ払っては僕と母に暴力を働く、あの男が大嫌いだった。

 だからある日、絶好の機会が訪れた時、僕は迷わなかった。躊躇ためらわず水槽の前で、父の名を三度唱えた。


 翌日、担任の先生の訃報ふほうを聞いた。

 そういえば先生は、父と同じ名だった。

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