オフィーリア

 河原を散策していると、川面を渡って歌が聞こえてきた。綺麗な歌声だった。

 誰が歌っているのだろう。

 首をもたげて見回すと、なんと上流から人が流れてくるのが見えた。


「人が溺れてる! 助けてくれ!」


 河原に居合わせた人々に叫んで、俺は靴を脱ぎ捨てるや川に飛び込んだ。



 大騒ぎの末に引き上げると、なんとそれはウィッグと高価そうなドレスで身を装ったマネキンだった。

 大山鳴動ネズミ一匹。皆呆れ果てた。とんだ悪戯をするのがいたものだと口々に毒づいて、三々五々に散っていった。


 まったく、とんだ骨折り損だ。

 濡れネズミな俺はげんなりしながら服を絞り、そうするうちにはたと気づいた。

 足元の人形を見る。

 流れてきたこれは、勿論生きてはいないものだ。

 なら、それならば。

 俺が耳にした歌声は、誰の歌うものだったのだろう?

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