開けてみて

 失礼、どうもお待たせしました。

 ……どうされました? そんな青い顔をして。わたしの離席中に何かありましたか?

 隣の部屋のふすま? 

 少し開いていますね。わたしが立つ前はちゃんと閉まっていたのに。

 きっと、姉が覗いたんでしょう。

 ああ、手も出ましたか。

 たまにあるのです。あれは、死んだ姉の手なのですよ。ひとりでは寂しいらしくて、時々覗いてわたしを手招くのです。


 あら、笑われましたね。

 そうですね。そんな事はあるわけがない。それが常識というものですよね。

 じゃああの襖、開けてみてください。


 どうしたんですか? 家の者がいいと言っているんです。遠慮なく開けてみてくださいな。

 ねえ、開けてみてくださいよ。

 わたしは隣には姉がいるのだと思っています。だのにあなたは違うとおっしゃる。

 それなら開けて、襖向こうを確かめてみる他ないじゃありませんか。

 わたしはとても怖いのですけれど、でもあなたは平気なのでしょう? あるわけないのが常識なのですから、あなたは怖くないのでしょう?


 なら、開けてみてください。

 ほら、開けてみてください。

 開けてみてくださいよ。ねえ。

 ねえ。

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