煩わされる
酒も
だらだらと歩く夜道は妙に明るい。見上げると、いい満月だった。
意図したわけじゃあないが、秋の月見酒と洒落込めそうだ。
チャイムを鳴らすと、仏頂面のヤツが出た。別に不機嫌なのではない。こいつは大抵こんな、親が死んだ当日のような顔をしている。
勝手知ったる他人の家と上がりこみ、テーブルの差し向かいに腰を下ろして、それから気づいた。
「どうかしたのか?」
「ん?」
「いや目。片方
「……今日は全くの満月だろう?」
「ああ」
「こういう夜に両目を開いていると、見えなくてもいいものまで見える」
そっちの方が余程に
言い切って、ヤツは缶ビールをふたり分開けた。卓上を滑らすようにして、一方をオレの前に回す。
「そうか、お前見えるひとだもんな。大変だな」
「煩わしいのはお前もだ」
「そう言うなって。付き合えよ、オレの命日くらい」
ちりんとどこかで、風鈴が鳴った。
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