交誼

 うちには離れがあった。

 一昔前はそこに愛人を囲っていたというから豪儀ごうぎなものだが、今は勿論そんな事はない。ただ名前の通り母屋から離れていて不便だったので、特に何に使用するでもなく使われる事もなく、ちょっとした物置のように扱われていた。


 数年前、その離れで怪異が起きるようになった。

 夜半ふと見ると電気とも思えない青白い明かりが灯っていたり、どこからともなくお囃子の音色が聞こえたりする。皆気味悪がって、昼間にも近付かないようになった。


 話を聞いて乗り出したのが叔父だ。

 叔父は都会で仕事をしていたのだが、病で体を損ねてこちらに戻ってきていたのだった。


「是非そこで寝泊りさせてください。解決できれば儲けものという事で」


 気楽に言う叔父の身を案じて父母はいさめたが、


「構いませんよ。どうせ先が長いでもなし」


 自嘲するように続けられてしまえば、もう引き留めもできなかった。

 その最初の夜、離れで何があったのかは判らない。

 けれど以来、離れの怪異はとんと絶え、叔父はそれからも離れで起居するようになった。

 何があったのかと問われても、叔父はどうという事もなく微笑むだけだった。ただ時折、夜更けに叔父ともうひとりが談笑する声が聞こえてくる事があった。


 数日前、その叔父が亡くなった。

 自宅で通夜をしていると、庭先に狸が来た。

 珍しい事もあるものだと食べ物を放ってやったが、見向きもしない。

 けれど逃げるでもなく鼻先を棺に向けてじっとうつむいて、その様はまるで叔父の死をいたむかのようだった。

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