機を逃す

 突然の春の嵐に、雨傘は用を為さなかった。

 仕方なく途上で買い込んだレインコートを羽織り、強く大きな雨粒を避け、下を向いて家路を急ぐ。

 その俯いた俺の顔面に、突然濡れた何かがぶち当たってきた。平手打ちのような予想外の衝撃にたたらを踏む。

 狼狽しながら顔に張り付いたものを掴んで引き剥がすと、それは白く長い布だった。この強風がたっぷりと水を含んだそれを運んで、俺にジャストミートさせてのけたのだ。


 悪天と不運の合わせ技だと知れたところで腹は立つ。

 ぐっしょりと気色の悪い掌中の布を、八つ当たり気味にアスファルトに叩きつけた。いや、つけようとした。

 だが布は与えられた慣性に反して中空で静止、更に懸命に風に抗ってふらふらと飛行して、建物の陰に逃げていった。

 唖然と見送り、それから有名な妖怪が脳裏に浮かび、惜しい事をしたと思った。

 一度、あれに乗ってみたかったのに。

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