汚される

 朝、寝ぼけ眼でカーテンを開けると、ひどいものが目に飛び込んだ。

 潰れた顔だ。

 男が、外から窓ガラスに顔を押し当てている。いや、当てるなどという軽い表現で追いつくものではない。

 小学生くらいの子供がするように、全力で顔を押しつけている。鼻も頬も唇も、ガラスの平面でべったりと押し潰れてしまっている。

 一体いつからそうしていたのか、俺が身を仰け反らせたのを見て、そいつは潰れたままの表情で満足げににやりと笑った。

 そしてぱっと消え失せた。


 窓の外にはベランダも何もない。何よりここは11階だ。冗談だろと窓を開けて下を見た。やはりいない。部屋の左右には、身を隠す余地も飛び移れる余地もない。

 首を振って窓を閉めて、なんとも嫌な気持ちになった。

 窓のガラスにべったりと、男の顔の形に脂汚れが残っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る